薬膳テキスト

3.五行説と薬膳
五行説は古代中国戦国時代に成立した自然哲学の思想で、万物を五つの元素の循環、流転に見立てて説明しようとしたものです。現代中国医学においても五行説の基本概念である「物事の繰り返し」、「循環」は理論の基礎に置かれており、これが滞ったり、過剰になったり、不足したりすることで身体に問題が起こるという風に考えられます。過剰、不足、温、寒などを万物を二元論で説明する陰陽説と同時に語られることが多く、陰陽五行説とも呼ばれます。

五行の五とは当時中国天文学で知られていた惑星の数に由来するといわれ、古代中国においては思想というより科学の基本概念でもありました。人間の指が五本であることも関係していると考えられています。一日の太陽の動き、春夏秋冬、人間の誕生から出産、死亡、 国家の盛衰、およそこの世の全てを五行の循環として捉え、その各段階に外部から手を加えることで上手にコントロールしようとした考え方だといえます。この自然に手を加えるという考え方は、神農が伝えたという農業・医術と親和性が高く、瞬く間に融合して古代国家運営の基本概念となりました。バランスが取れなくなり循環の停滞したもの、つまり床の上で動けなくなったものを「病」、またその規模の大きいものを「疫」といいます。それぞれ床に伏せる、停止を意味する象形文字である「丙」、武器を以って人を殴る、攻撃を表す象形文字である「殳」が使われています。

五行説は日々循環する我々人類の生命活動に、外部から適切な栄養分、薬効を持つ成分を取り入れることで整えようという薬膳料理の基礎概念になります。五行をそのまま暗記するというよりは、その基本をしっかり理解しておく必要があります。
4.張仲景と薬膳
張仲景は名前を機といい、出身は東漢時代の南陽(現在の湖南省西南区)で、漢霊帝のときに孝廉制度により推挙され、長沙太守という官位まで上り詰めたです。孝廉とは儒教に篤く清廉である人を中央に推挙する制度のことです。ちなみに彼の2代前の長沙太守は三国志でおなじみの孫堅です。張仲景若くしてすでに自らの医術の師、張伯祖を越えたといわれており、当時の医書を後世に残る一大著作《傷寒雜病論》を書き上げたことで有名です。他にも《療婦人方》、《五臓論》、《口歯論》などの著作があります。

残念ながら《傷寒雜病論》 の原書は失われてしまいましたが、後世の著作による復刻を経て、現在は《傷寒論》と《金匱要略》の二部に分かれて流通しています。当時の医術に関する理論、方法論、処方、薬物、臨床経験が極めて高水準でまとめられており、その後千年以上にわたって医聖として珍重されています。

彼の著作は後世の医家に大きな影響を与えました。《傷寒雜病論》には現代の薬膳粥とも取れる処方がいくつか記載されています。例えば“白虎湯方:知母六兩 石膏一斤(碎) 甘草二兩(炙) 粳米六合 右四味、以水一斤、煮米熟、湯成、去滓。溫服一升、日三服 ”などは典型的な薬膳粥の作り方ですし、“ 附子粳米湯方:附子(一枚,炮) 半夏(半升) 甘草(一两) 大棗(十枚) 粳米(半升) 右五味、以水八升、煮米熟湯成、去滓。温服一升、三日服”なども薬膳粥の一つと考えてもいいでしょう。

《傷寒論》と《金匱要略》にはこれ以外にも多くの食と医療に関する記載があります。ある処方には米を加えて粥とし、羊肉を加え、卵黄を加え、生姜や葱を加えて作る処方も数多くあります。

中国医学史上に燦然とその名を輝かす張仲景、薬膳を学ぶなら彼の名前と著作は絶対に覚えておきたいものです。
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