木耳蒸雞│鶏肉と黒木耳の中華蒸し

難易度:☆ 調理時間:30分以内
炊飯器で作る簡単蒸料理『木耳蒸雞│鶏肉と黒木耳の中華蒸し』のレシピを紹介します。鶏のダシをキクラゲが残さず吸い込むので、非常に濃厚なうま味を楽しめます。しかも切って混ぜてスイッチを入れるだけ、超簡単に作れます。

料理(食品科学)に明るい人ならご存知でしょうが、肉類は締めたての新鮮なものよりもある程度熟成させたものの方が旨みが増しておいしくなります。ところが台湾には考え方がまったく逆、肉は新鮮であればあるほどおいしいと考える人もいるのです。今回はそのメカニズムを簡単に紹介しましょう。

生物の筋肉はATPと呼ばれる物質を利用して収縮します。生体が死亡してATPの供給が絶えると、もう一つのエネルギー源であるグリコーゲンが分解され乳酸を生じ、pHが低下、筋肉の保水性が低下して収縮できなくなり硬化、いわゆる死後硬直という状態になります。

実は台湾ではこの死後硬直が起こっている新鮮な状態の肉が市場では主に売られています。明け方に締めて当日の早朝から市場に出回り、小売店などはこれを買って店頭に並べます。筋肉の中にあるミオグロビンが空気中の酸素と結合していないので肉は黒味がかっており、絶賛死後硬直中ですので肉質も硬いです。日本ではこの状態の肉はまず食べませんが、一体どういう味がするのでしょうか?ちなみに伝統的な寿司職人さんや和食料理人らはこの死後硬直が起きているくらい新鮮な魚肉こそ至高という考えを持つ人が多いです。

グリコーゲンは単独では無味無臭ですが、グルタミン酸などのうま味成分のうま味を強める作用があります。死後硬直中の肉を食べるとグリコーゲンが増強したグルタミン酸(など)のうま味を楽しめるというわけです。つまりグリコーゲン × 成体にそのまま残っているうま味成分(グルタミン酸など) = (一部の)台湾人が考えるおいしい肉です。ただし肉はカチカチですので、繊維を切ったり包丁を入れたりの加工が必要です。台湾の市場で出回っている鶏肉は関節を動かすことが出来ないくらいカチカチに死後硬直していることがあります。刺身でいう「身がプリプリしている」状態です。相当の包丁技巧がないとさばくことすら難しい状態といえます。

対して日本では通常締めた後の肉は0度で冷凍させずに数日(豚肉は一週間ほど)保存してから出荷します。この時肉の中で活性を保っている酵素により、筋肉などのタンパク質が分解され、グルタミン酸やイノシン酸などのうま味成分が増加します。これは微生物の発生を抑えつつ、うま味を増していく過程で日本のスーパーで売られている肉はほとんどが、熟成作業をへたものです。うま味の分解がピークで食べごろの肉を食べているというわけです。死後硬直は解除されているので肉は柔らかくなりますが筋肉本来の弾力が戻っているわけではなく、タンパク質が分解されて変質しているためなので指で押すとなかなかもとの形状に戻りません。また死後硬直で黒ずんでいた肉は空気中の酸素と筋肉中のミオグロビンが結合することにより赤くなり、見た目も美しくなります。うま味のピーク = 日本人が考えるおいしい肉というわけです。魚と獣肉でうま味への考え方がまったく違うのが日本人の面白いところですね。

うま味だけで考えると熟成させた肉の方が間違いなくおいしいのですが、新鮮な肉もグリコーゲンとうま味の相乗効果というこの組み合わせでしか味わえない味とプリプリの食感があるので、新鮮で硬い肉というのも一定の需要はありそうです。

理想的にはグリコーゲンの濃度を熟成させたうま味のピークまで保ちつつ食すことです。グリコーゲンの嫌気分解をする酵素の遺伝子を欠損させた豚…とか考えてしまいますが、生まれてすぐ死んじゃいそうですね…。ならば締める前にグリコーゲン分解酵素を不活性化する薬物を投与してから熟成…、これなら行けそうですがこの薬物が数時間ほどで死亡した生体内で分解できないとなると人間の口にもそのまま入ってきてしまうわけで…。そのためこの薬物には経口で吸収されないとか、熱で不活性化するとかの性質を持つ必要がありそうですが、数兆円規模の膨大な研究費用がかかりそうです。

…いわゆるハーブ牛などハーブを食べさせて育てた肉はおいしいといわれますが、これらハーブの成分にもしかするとグリコーゲン分解酵素を阻害する働きを持つものが隠れてたりして…、とか薬剤師みたいなことを考えてみたり…。もし見つかればそのハーブの需要が増すので、先物投資としゃれ込んでもいいかも…と経済学研究者みたいなことを考えてみたり…。

そうだ!!新鮮なレバー(グリコーゲンの宝庫)と一緒に食べればいいんじゃね?!

これで解決です。これなら台湾人も納得のおいしい肉をいつでも食べられそうです。

熟成させて焼いた肉を薄切りにした生レバーで包んで食べる…。新しい料理の誕生です!十分熟成させてから炙った刺身に牛レバーのペーストを混ぜたワサビを載せて寿司に…。これは新しい味覚の扉が開くかもしれません。誰か試してみませんか?

台湾の市場に行くことがあれば売られている肉を日本の肉と比べて見ましょう。台湾の肉が硬くてダメだという人は冷蔵庫のチルド室で牛肉なら10日ほど、豚肉なら5日ほど、鶏肉は半日から一日ほど置いておけば、われわれ日本人のよく知る柔らかくておいしいスーパーのお肉になります。冷凍してはダメですよ!

逆に台湾料理の完全再現を目指す方は、当日絞めたばかりの新鮮な肉を買ってきて使ってみましょう。

というわけで今回の料理とまったく関係ない記事でしたが、この料理は美味いです!ぜひお試しください。

[材料]
鶏もも肉 ……… 600g
黒キクラゲ ……… 100g
ショウガ ……… 10g
トウガラシ ……… 1本
ネギ ……… 40g

[調味料]
塩 ……… 小さじ1/4
砂糖 ……… 小さじ1
醤油 ……… 大さじ1
片栗粉 ……… 小さじ2
酒 ……… 大さじ1
ごま油 ……… 小さじ1

[作り方]
1.鶏もも肉を食べやすい大きさに切る。黒キクラゲを水に浸けて戻し、食べやすい大きさに切る。ショウガをすりおろしておく。トウガラシの種を除き、輪切りにする。ネギを段切りにする。

2.作り方1の材料とすべての調味料を良く混ぜ合わせ、そのまま炊飯器に入れる。スイッチを入れて炊きあがったら完成。

Point!
少量(約50ccほど)の水か中華スープを加えて作っても美味です。


2 コメント :

匿名 さんのコメント...

いつも楽しく拝見しております。
炊飯器にかける時間を教えていただけるとありがたいのですが。

甘口さんの知識は美味しんぼの山岡さんレベルでいつも脱帽しております。
これからも楽しみにしております。

Higene さんのコメント...

匿名様

美味しんぼの山岡さんと比べていただけるなんて光栄です!

当ブログのレシピは大体全部ご飯を炊くモードでスイッチを入れて自動でスイッチが切れるまでを基準にしています。時間の設定が可能なら炊飯30分、蒸らし10分ほどを目安に調理してみてください。

あと炊飯器で作るメニューの大部分は普通の鍋でも作れますよ。

 
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