台湾毒澱粉問題について

現在台湾で話題の「毒澱粉」問題について思うところを書きます。レシピとはまったく関係がありません。興味ない人は読み飛ばしてください。

台湾に関心のある日本人ブロガーさんたちによっても事件に触れられていたりするのですが、ページによっては事実と異なる点があるようで、多くの間違いも散見されます。まず科学的な事実を説明したいと思います。

台湾で食品に混入して問題になっているのは「無水マレイン酸」と呼ばれる化合物です。「マレイン酸」ではありません。無水マレイン酸を中国語名を「順丁烯二酸酐」 といい、「順丁烯二酸」がマレイン酸、「酐」が無水物を表します。化合物としては大学教養レベルのもので、下のような構造をしています。


加水分解してできるマレイン酸はフマル酸の幾何異性体です。中国語ではcis体とtrans体は「順」と「反」の字で分けるようで、「反丁烯二酸」と書けばフマル酸を表します。大学で有機化学を学ぶと確実に試験に出るような有名な化合物です。



続いてマレイン酸も無水マレイン酸も食品添加物としては許可されていません。ただしアメリカやユーロでは食品と直接、および間接的に接する可能性のある包装物の原料として一定量以下なら使用することが認められています。包装などに使われる物質は間接食品添加物と呼ばれることがあります。台湾では間接食品添加物に関する法律はありません。

 食品添加物とは加工に必要だったり、保存性の向上や栄養の強化のために添加が許可されている物質のことで、安全と認められたうえで何らかの有用な効果があるために許可されているものがリストに定められています。有名なものではブドウ糖やビタミンCなど、着色料なども含まれます。国によって法律が異なりますが、基本的にポジティブリスト方式で、特に合成化合物は許可されていないものは以外は使えません。

無水マレイン酸はもちろんどの国の食品添加物リストにも載っておらず、これが食品に混入した今回の事件はもちろんおおきな問題です。

ここでもう一つ問題となるのは「じゃあ、どのくらい影響があるの?」ということです。台湾人の多くも誤解しているようですが、食品添加物として許可されていないからといって、すなわち毒性があるとは限らないということです。
  
過去、食品添加物に指定されていながら発がん性などが見つかったためリストから消去された物質も多数あり、その印象が強いためか食品添加物で指定されているもの以外は口にしたら危険と誤解している人が多数います。台湾メディアも毒澱粉などと表記してあおりまくっていますが、これはこれで問題だと思っています。

一応動物に対する毒性のデータを載せて起きます。
 ・無水マレイン酸LD50(ラット、経口):400mg/Kg
 ・マレイン酸 LD50(ラット、経口):708mg/Kg
 いずれも発がん性、遺伝毒性、低容量長期摂取による毒性なし。

台湾ではでんぷん類に無水マレイン酸が10ppm以上混ざっていればアウトとしているようですが、ラットのデータを参考にするなら、でんぷん1kgに10mgで10ppm、100倍入ってるとして1kgあたり1000mg。体重60kgの人が半数致死量を摂取するには24kgのでんぷんを”一度に”食べる必要があります。でんぷんによる吸収阻害もあるでしょうし、実際の致死量はもっと多いはずです。というかでんぷん24kgも食べたら、毒が入ってなくてもたぶん死にます。心配する必要はまったくないレベルの毒性です。てか誰が粉のでんぷん24kgの一度に食べるんでしょうか…?

少なくとも無水マレイン酸自体には毒性と呼べる毒性はありません。もちろん危険物質や毒物としての指定もされていません。少なくとも相当大量の純物質を血管に注射するなどしないと有害と呼べるような反応は出ないのではないかと思います。

更に問題を複雑にしているのが、過去この物質を食品添加物として使用してはどうか?という研究が台湾で行われていて、特許まで申請されていることです。

高校の化学教師を退職した王東清という人物が2008年に食感の向上を目的に無水マレイン酸を澱粉に加えることを研究し、実際に特許の出願を行いましたが特許局は特許を認めませんでした。彼は無水マレイン酸混入澱粉の販売・流通にも関わっていないため、今回の事件とは直接関係がありませんが、彼が申請した特許の情報を用いて、ある企業が継続研究を行っていたとされており、それが今回の事件につながるわけです。王東清自身は継続された研究についてはまったく知らず、対価も受け取っていません。安全性については「おそらく問題ないと思う」とも発言しています。

混入経路や理由は現在も解明中なので後日新しい情報が入り次第お伝えしたいと思います。

現在台湾で販売されている澱粉製品、及びそれらの加工製品はほとんどが影響を受けているといわれ、練り物、揚げ物、煮物などあらゆる製品の売り上げががた落ちしています。5月30日時点で300トンを越える製品が回収廃棄されており、現在販売中の製品は問題がないといいます。

というか筆者は台湾人ほど気にしてませんし、普通に食べてます。事件が報道された時点でほとんどの製品は回収されており、それが隠蔽だとの指摘を受けましたが、現時点で出回っている製品はほとんど問題がないと思われます。台湾で食事を楽みたい方はそれほど神経質にならずに気軽に訪れて、美食をお楽しみください。
 

最後に、台湾のWikipediaでは事件が時系列でまとめられていました。簡単にまとめておきたいとおもいます。

2013年
4月下旬
セブンイレブンとファミリーマートでの内部調査によりおでんの中の竹輪から工業用原料である「無水マレイン酸」が検出される。製造物と高雄の長盛食品、業者に事実を伝え4月25日には全商品を撤去、仕入れ元も変更。

5月13日
衛生署食品薬物管理局は新聞で「一部の業者が未許可の食品添加物である無水マレイン酸を使った澱粉を使っている」と伝えた。サンプル調査の結果49商品中5件で無水マレイン酸が検出され、これら5件の商品を作る業者の製品を全て調べたところ、粉圓、芋圓、地瓜圓、板條および黑輪など、4業者の8商品から無水マレイン酸が検出されたたと発表した。

5月28日
衛生署食品薬物管理局は「無水マレイン酸を含む澱粉239トンを回収。無水マレイン酸の輸送業者、卸業者、製造業者、販売代理店、包装業者などを調査した」と発表。
実際には2月に事実を確認、4月に商品の撤去指示、撤去の確認が行われていたことがメディアにより会議録などから確認され、大きく報道された。事件隠匿の動きがあったなど批判され大きな社会問題に。
 
6月5日
衛生署食品薬物管理局局長が、「2月に情報を入手、調査を開始。3月15日に検査方方を確立。3月18日に74商品を調査。5件から無水マレイン酸を検出。商品の撤去・保存を指示。4月10日まで地方を順次調査。状況を把握。5月10日に製造元、工場などの資料を把握。5月13日に発表。」とことの経緯を説明した。


事件は政治批判の色合いも帯びてきました。今後もウォッチしていきたいと思います。


参考:
化合物毒性データ
http://hazard.com/msds/mf/baker/baker/files/m0364.htm

Wikipedia(台湾)
https://zh.wikipedia.org/wiki/2013%E5%B9%B4%E5%8F%B0%E7%81%A3%E6%AF%92%E6%BE%B1%E7%B2%89%E4%BA%8B%E4%BB%B6




1 コメント :

甘口男 さんのコメント...

でんぷん2.4kgじゃなくて24kgでした。桁間違えちゃってたテヘヘ。
記事は修正済みです。

 
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