中薬学テキスト - 第二章 清熱薬 ‐ 第一節 清熱瀉火薬

第1節    清熱瀉火薬
気の邪熱を排泄する作用を主とし、気実熱証に用いる薬物を清熱瀉火薬と呼びます。

清熱瀉火薬の薬性は“寒能清熱”の薬性理論に基づきほとんどが寒で、決明子、密蒙花、青葙子は微寒、穀精草のみが涼よりの平です。

大多数の薬物の薬味は甘ですが、梔子、夏枯草、青葙子の薬味は苦です。このほかにも石膏は解肌退熱、夏枯草は散結の効能から辛味、知母、天花粉、鴨跖草、決明子は排熱の効能から苦の薬味を併せ持ちます。また竹葉、淡竹葉は通利小便の効能から淡味も持ちます。また寒水石の薬味は通常辛、鹹とされます。穀精草は甘の薬味を持ちます。

清熱瀉火薬はそれぞれ異なる作用部位を持ち、帰経は多岐にわたります。肺熱、胃熱、心火、肝火などが引き起こすそれぞれの臓腑の火熱証ごとに薬物の帰経が異なります。石膏、知母、蘆根、天花粉、鴨跖草、梔子は肺胃気の邪熱を清めるので肺、胃経に属します。夏枯草、決明子、密蒙花、青葙子は清肝明目の効能があり肝経に属します。竹葉、淡竹葉は清心排熱、除煩止渇、滲湿利尿の効能があり、心、胃、小腸経に属します。この他、知母は滋腎陰、潤腎燥、退骨蒸の効能から腎経にも、鴨跖草は利水消腫の効能から膀胱経にも、梔子は清心、肝、肺、胃、三焦の熱を除くことから心、肝、三焦経にも、夏枯草は清肝胆火の効能から胆経にも、決明子は益腎陰、潤腸通便の効能から腎、大腸経にも属します。寒水石は心、胃、腎経に属します。穀精草は肝、胃経に属します。

以上をまとめると下の表のようになります。

薬物
薬性
薬味
帰経
小腸
その他
石膏
甘、辛




寒水石
辛、鹹



知母
甘、苦



蘆根




天花粉
甘、苦




竹葉
甘、淡


淡竹葉
甘、淡



鴨跖草
甘、苦



膀胱
梔子

三焦
夏枯草




決明子
微寒
甘、苦




腎、大腸
密蒙花
微寒





青葙子
微寒





穀精草






熱を冷ます薬効を持つだけあって、ほぼ全ての薬物が寒の薬性を持ちます。また帰経はそれぞれの薬物の作用部位をほぼそのまま表しており、それぞれの薬物の特徴ともなっています。全ての薬物が胃と肝経のどちらかに帰属し、また胃経に属するもののほとんどは肺経にも属します。違いをしっかり覚えましょう。

それぞれの薬物の特徴を見てみましょう。

石膏
清熱瀉火、除煩止渇、収斂生肌の効能があります。性味は甘、辛、大寒で、帰経は肺、胃です。特に強力な清熱作用を持つため大寒の性味をもちます。臨床では肺胃の実熱を取り去る実熱の要薬です。温熱病で壮熱、煩渇、汗出、脈:洪大などの肺胃気の実熱証に常用され、また邪熱が肺に溜まったもの、呼吸過多、粘る痰、肺熱の咳、胃熱による胃のむかつき、頭痛、歯痛などにも使われます。温邪が気と血の両方に入ってしまった場合、石膏は清熱涼血薬と配合して用いられます。また石膏を炙ると清熱収湿、斂瘡生肌の効能が出てきます。このため粉末にして、長引く瘡瘍潰爛の傷口や、熱湯や直火による熱を持った火傷などに塗布し外用して用いたりもします。
寒水石
清熱瀉火の効能があります。性味は鹹、辛、大寒で、帰経は胃、腎、心ですが、時に胃と腎のみとされます。石膏と同じく大寒の薬性を持ち、常用はされませんが丹毒や火傷に内服、または外用されます。
知母
清熱瀉火、滋陰潤燥の効能があります。性味は甘、苦、寒で、帰経は肺、胃、腎です。寒の薬性で熱を清め、甘の性味で陰を潤します。清熱の力は石膏より劣りますが、滋陰燥湿の作用は勝ります。上は肺熱を冷まして潤し、中は胃熱を清め津液を生み、下は腎火を瀉するという、上中下の三焦すべてに効果のある薬物です。また清実、虚熱の両方に用いることができるという特徴があります。熱病の邪熱が亢進し、壮熱、煩渇、脈:洪大などの肺胃実熱証、肺熱の咳、陰虚の乾いた咳、陰虚火旺、骨蒸潮熱、盗汗心煩、陰虚消乾、腸燥便秘などの証に用います。
石膏、知母はどちらも性:寒で、肺、胃経に属し、清熱瀉火、除煩止渇の効能があります。気の温熱病邪で、壮熱、煩乾、汗出、脈:洪大などの肺胃気の実熱証、また肺熱の咳などに用います。石膏の瀉火力は知母よりも強力で、肺胃の実火を清める方に効能が偏っており、肺熱の咳、胃熱によるむかつき、頭痛、歯痛などに多用されます。また加熱した石膏は収斂生肌の作用があり、外用にも用いられます。対して知母は滋陰潤燥の力が強く、肺胃の燥を滋潤する作用に効能が偏っており、陰虚の咳、陰虚による喉の渇きなどに多用されます。また知母は腎経にも入るので、腎火を鎮め、潤腸通便の効能も持ちます。陰虚火旺、骨蒸潮熱や腸燥便秘などの証に用いるのも特徴です。
蘆根
清熱生津、除煩止嘔、利尿、透疹の効能があります。性味は甘、寒、また潤で、帰経は肺、胃です。肺と胃の熱を取り去り、渇きを止め、熱毒を除いて吐き気を止める作用があります。熱病で津液が不足しているものなどに常用され、煩熱口渇、舌赤少津、胃熱嘔逆、肺熱の咳、肺癰吐膿などの証に用います。この他清熱利尿、透疹の効能もあり、小便短赤、熱淋渋痛などの証にも用います。
天花粉
清熱生津、清肺潤燥、解毒消癰の効能があります。性味は苦、甘、寒で、帰経は肺、胃です。効能は蘆根に似ており、清熱の効果は蘆根に劣りますが、生津の効果は勝るとされます。熱病で津液が不足するもの、口燥煩渇、陰虚内熱、消渇多飲などの証に用います。天花粉は清熱解毒、消癰排膿の効能もあり、癰腫瘡瘍などの傷口に外科的に用いることがあります。また近年は出産や子宮の各種病気に数々の研究報告があり、出産時の出血を軽減したり、子宮外妊娠、流産体質の改善、子宮がんなどにも用いられます。
蘆根と天花粉はどちらも甘、寒の性味を持ち清熱生津、除煩止渇の効能があります。熱病が津液の不足を招いたもの、肺胃熱で口が渇くもの、肺熱の咳などに同じように用いられます。清熱の力は蘆根が勝り、清肺去痰、排膿、清胃止嘔、清熱利尿などの効果に優れます。生津の力は天花粉が勝り、陰虚内熱、消渇多飲、空咳などには天花粉が常用されます。天花粉には解毒消癰の効果もあり外用され、また各種子宮の疾患などにも用いられます。
竹葉
清熱除煩、生津、利尿の効能があります。性味は甘、淡、寒で、帰経は心、胃、小腸ですが、時に肺、心、胃として、淡竹葉と区別することもあります。清心、清胃熱の効果に優れているとされ、心火による気分の悪さや胃熱による口の渇きによく用いられます。また熱病による津液の不足や、心火による口渇、口内炎などにも用います。
淡竹葉
清熱除煩、利尿通淋の効能があります。性味は甘、淡、寒で、帰経は心、胃、小腸です。清心泄熱の効果に優れているとされ、熱病による津液の不足や、心火による口渇、口内炎などに用います。また熱が小腸に到ったものにも用いられます。滲湿泄熱の効果に優れ浮腫で尿量の少ないもの、また黄疸で尿が赤くなったものなどにも用います。
竹葉と淡竹葉はどちらも甘、淡、寒の性味を持ち、どちらも帰経は心、胃、小腸とされます。どちらも熱病による津液不足による煩熱口渇、また心火上炎による口内炎、心熱が小腸に到ったことによる小便短赤渋痛などに用います。どちらもよく似た効能を持ちますが、竹葉は清心除煩に長け、淡竹葉は清熱利尿に長けているとされます。また竹葉は風熱の邪を冷まして除く作用を期待して、外感風熱で口渇のあるものなどにも用いられます。この他に、竹葉の幼葉を竹葉巻心と呼び、清心火の作用に更に優れているとされ、熱病の邪が心包にまで到り、昏倒したものなどに多用されます。
鴨跖草
清熱解毒、利尿通淋の効能があります。性味は、甘、苦、寒で、帰経は肺、胃、膀胱です。温病の初期で邪が衛に入り、熱が気に入ったものによく用いられます。高熱を出して喉が渇いたり、喉が痺れたり、浮腫みや小便痛があるものなどに用います。
梔子
瀉火除煩、清熱利湿、涼血解毒の効能があります。性味は苦、寒で、帰経は肺、胃、肝、三焦、時に心をくわえます。梔子は薬効がゆっくりと下降して、肺、胃、肝、三焦の熱を小便として出すという特徴があります。また気の熱を冷まして煩を除き、血の熱を冷まして解毒するという気血両方の清熱効果があるという特徴もあります。熱病による煩悶や、湿熱による黄疸、血熱による出血、吐血、ニキビ、打撲などに常用されます。
夏枯草
清肝火、散鬱結、降血圧の効能があります。性味は苦、寒で、帰経は肝、胆です。肝胆の鬱火を除く効能に優れ、特に肝火の上昇による目の充血、眼球痛、涙目、頭痛などに常用される清肝明目の良薬とされます。肝火が凝結した肩こりや疲労、子宮筋腫などにも用いられます。現代では高血圧症で肝熱陽亢のものによく用いられます。
決明子
平肝息風薬に分類されることもあります。清肝明目、平肝潜陽、潤腸通便の効能があります。性味は甘、苦、微寒で、帰経は肝、腎、大腸、時に肝、大腸のみです。肝火を排泄し、腎の陰気を益す作用に優れ、明目の佳品と呼ばれます。肝の実火を清め、目の腫れや充血、痛み、腎気不足による視力低下など眼科での実虚両方の証に用いられます。また潤腸通便、降血圧の効能もあり、内熱による便秘や肝熱亢進による高血圧にも用いられます。
夏枯草と決明子はどちらも清肝明目、降血圧の効能があり、肝火上炎による目の充血や高血圧などに用いられます。夏枯草は清肝火の力が強く、肝火鬱結による肩こりや子宮筋腫などに用いられます。決明子は益腎陽の作用に優れ、眼科の実虚両方の証に用いることができます。また清熱潤腸通便の効能もあり内熱による腸の乾燥が原因の便秘に用いられることもあります。
密蒙花
清肝、明目退翳の効能があります。性味は甘、微寒で、帰経は肝です。
青葙子
清肝瀉火、明目退翳の効能があります。性味は苦、微寒で、帰経は肝です。
密蒙花と青葙子はどちらも夏枯草、決明子などと同じように眼科の処方によく用いられる薬物です。密蒙花は清肝熱の効果に優れまた、弱い養血の作用があるとされ、虚実どちらの証にも用いられます。青葙子は清泄肝火の力が比較的強く、高血圧などの合併症があり、肝火の亢進したものに用いられます。
穀精草
疏散風熱、明目退陰の効能があります。性味は甘、平で、帰経は肝、胃です。眼科の疾患に多用されます。また風熱の頭痛、歯痛、喉の痺れなどに時々用いられます。

木賊、谷精草にも明目退翳の効能があり、肝火上炎による目の充血、涙目などに用います。木賊は疏風の力が比較的強く、また止血や痔にも用い、谷精草は清熱の力が比較的強いという違いがあります。

用法用量と注意
石膏の辛寒清解、知母の甘寒滋潤、蘆根と天花粉の甘寒生津、竹葉と淡竹葉の甘淡利湿、梔子の苦寒清降の効能と薬味は必ず覚えておきましょう。どれも常用される薬物です。

石膏は鉱物薬で毒性がないため煎液では15-60gほどの大量を用いることがあります。砕いて他の薬物よりも先に煎じると良いとされます。また外用時は炙ってから粉にして用います。また大寒の性質を持つため、脾胃の虚寒及び陰虚内熱のものには使ってはいけません。

知母は寒性で潤質であり、潤腸の効能があります。脾虚で便が泥状のものにはあまり使いません。

天花粉には子宮収縮効果があり、妊婦には禁忌とされます。また天花粉は別名を栝楼根といい、栝楼と同一の植物が基原となっています。このため栝楼と反するとされる烏頭とは同時に用いません。

決明子を通便の目的で用いる場合は、炙る時間を短くしたものがよいとされます。また気虚で便が泥状のものには用いません。

青葙子は瞳孔拡大作用があり、緑内障には禁忌とされます。

生石膏は清熱瀉火、除煩止渇の効能に優れ、焼石膏は収斂生肌の効能に優れます。知母は清熱瀉火にはそのまま、滋陰降火には塩水で炙ってから使うと良いとされます。蘆根は新鮮なものの方が作用が強く、乾燥品は新鮮なものよりも効果が劣るとされます。梔子はそのまま用いると気の瀉火に、黒炒したものは血の瀉火に優れるとされます。

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