難易度:☆☆ 調理時間:数日
本日から数回にわたって客家の伝統料理を現代風にアレンジした、「モダン客家料理」のレシピを紹介します。
台湾では毎年「客家美食大賽」 という客家料理の大会があり、この料理もその入選作品(の一部)です。この料理から始めて5日間、毎日紹介する料理を作り続けていれば最後にはいいことがあるかもしれません(まだ秘密です)。
まずは第一弾『烤鹹黑豬肉│客家風黒豚のレモン焼き』を紹介します。肉を浸けておく時間が必要ですが、調理にはそれほど手間がかかりません。レシピの一部でもいいのでぜひ挑戦していただきたいと思います。
台湾は明清時代に大陸からの漢族移住者が多く移り住んできて開拓されました。大きく分けて泉州、漳州、客家の出身者ごとに開拓した場所が細かく異なります。
現在の台北市を見ても泉州出身者は、艋舺、錫口、大龍峒、大稲埕などの市内中心部及び木柵を、漳州出身者は松山から景美、新店に至る現在の新店渓一帯を、客家出身者は現在の中正区公館及び文山区辺りの挙山と呼ばれる場所をそれぞれ開拓し、それぞれの境界で「分類機闘」と呼ばれる紛争を起こしました。
当時も今も福建省は地域ごとに方言の差が非常に大きく、同じ福建省出身とは言え泉州と漳州の人々はあまり意思の疎通がスムーズにはいきません。客家の人々とはほとんど無理といっていいでしょう。この言語の問題及び福建省時代から続く宗教間の対立などが引き金となり、また清朝政府が台湾における漢人間の闘争をほとんど管理しなかったことから台湾では激しい抗争が繰り返されます。清朝が本腰を揚げて台湾の管理を始めるまで、台湾はかなり不安定な土地でした。
漢人の入植から数百年かけて福建語の泉州方言と漳州方言は少しずつ混ざり合い融合し現在の「台湾語」と呼ばれるものに進化しますが、客家語だけは独立した言語として残りました。これは他の漢族との混血を嫌う客家の性質にもよるところが多かったのではないかと推察されます。
日本による台湾統治が終わり国民党が遷台してきてからも、台湾客家の人々はかなり保守的で、他の台湾人と容易に迎合しませんでした。筆者の知る50台のおばさんは「昔は客家の連中と結婚するなんて言ったら、周りの全員から反対されたもんだ」と言います。この世代の台湾人は客家の人々に対して少なからず心理的な障壁があるようです。たしかに客家の人々のコミュニティは非常に堅牢で外部からの進入を容易には受け付けません。商習慣、生活習慣や祭事、農業技術も、客家以外の人たちとは少しずつ異なり、それを頑なに守ろうとするので、現代においても些細ないざこざが発生することもしばしばあります。しかしこの強固なつながりが政治分野で発揮されると、非常に安定した発言力を発揮します。台湾の国会議員や有力政治家には客家出身者が少なくありません。興味深い現象です。
原住民、泉州人と漳州人、客家人、そして内省人と外省人の問題は、台湾社会を特徴付けているおもしろい現象の一つで、多くの興味深い論文や著作が、社会学、人類学、政治学などの分野で発表されています。中国語に堪能な方は、図書館などで捜して目を通してみると新しい発見があるかもしれません。日本でも数多くの文庫や新書が発売されていますので、興味があれば目を通して見ましょう。台湾をより深く知り、好きになるためには必須の知識でもあります。
このレシピはそんな客家の精神が詰まった「客家美食大賽」 の入選作品です。日本の家庭でも再現できますので、ぜひ挑戦していただきたいと思います。