薬膳料理『山藥酥│ヤマイモの唐揚げ』のレシピを紹介します。一度くらいは食べたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
私が薬学生だった頃は生薬学の先生に“まさに山に生える薬だから山薬と呼ぶのだ”と教わった記憶があるのですが、調べてみると台湾・中国では別の伝説が…。
言い伝えによるとはるか昔、ある二つの国が戦争をしていたときの話。 小国は大国に攻められ続け、領土の大半を失い、ある一座の山に逃げ込みました。山は「守るに易し、攻めるに難し」の定石のような地形であり、圧倒的有利の大国側は山全体を包囲して小国の兵糧が尽きるのを待ちます。
小国側はひたすら耐えていましたが、さすがに一ヶ月もすると兵糧がなくなり、動ける兵士も少なくなり始めます。その様子を静観していた大国側の兵士はもうしばらくで投降してくるだろうと、考え始めました。
そして二ヶ月、三ヶ月、大国側は包囲したまま敵が更に弱るのを待ちます。軍馬が食べつくされ、周辺の食用になるものも全て食べつくすまで包囲の手を緩めません。 しかし小国はまだ投降してくる気配がありません。
大国は結局八ヶ月待ちました。どう考えても飢餓と装備不足で軍の大半が機能しなくなっているはずです。投降する力もうせたのだろうと、大国の兵らはもう簡単に殲滅できると高をくくり、包囲の手が緩み始めました。油断です。
そうしたある夜、小国の兵士らは沈黙を破り大国の大本営を急襲しました。大国の指揮官は為すすべなく敗れ、その後も小国の兵らは少数ながら連戦連勝を重ねて領土の大部分を回復します。
小国の兵らが山にこもって約一年、もちろん兵糧は早々に尽きたのですが、実際に餓死者は一人も出ませんでした。小国の兵らが篭った山にはもともと天然のヤマイモが豊富に産出する場所で、兵らはこれを食べて勝機をうかがっていたのです。兵たちはもちろん、植えていた軍馬もこれを食べて元気を充填し、強力な力を蓄えていました。
兵らはこの植物に感謝し、「山遇」と名前を与えました。「食料が枯渇した山中で偶然出会ったもの」の意味です。後に医療用として優れた健脾胃、補肺腎の効能があることがわかり、「山偶」は「山薬」と名前を変えて呼ばれるようになりました。
中国ではこちらの伝説の方が「山薬」の名前の由来として広く知られています。「山薬」が初めて本草書に登場するのは《本草綱目》で、名称は「薯蕷」ですが、当時から一部の地域では山芋と呼ばれていたようです。
さて、古代中国では諱または廟諱という、皇帝の名前と同じ文字、死後の皇帝に送られた名前と同じ文字、同じ部首、同じ音の文字は「使えない」という奇妙な制度がありました。もちろん過去に書かれた文献も全て書き換えられます。ただし使用を禁止すると弊害が大きすぎる字(数字や色など)は例外とされ、そのたびに王朝から許可が出されました。
この制度により、まず唐代に「薯蕷」の「蕷」の字は代宗の名である「預」とかぶってしまい、山薯などと名前が変えられます。更に宋代、英宋の名である「暑」と薯がかぶってしまい、全面的に名前が変えられることになってしまいます。実際には「山薬」の名はこうして生まれたのでしょう。他にも「玉延」、「児草」、「淮山」、「土諸」など多くの別名があります。生薬に多くの別名があるのはこういった理由もありそうです。
ヤマイモには益気養陰、補脾肺腎の効能があり、薬膳では夏ばてや体力低下に常用されます。生薬としてはもちろん乾燥させたものを使いますが、薬膳料理では生も使います。
薬用効果もさることながら食材としてもおいしいヤマイモ、今回は唐揚げにしておいしくいただきます。疲れや体力の低下を感じる方はぜひお試しください。
[材料]
ヤマイモ(生) ……… 500g
から揚げ粉(小麦粉など) ……… 100g(適量)
[調味料]
塩 ……… 適量
[作り方]
1.ヤマイモをよく洗い、皮をつけたまま耐熱容器に乗せて蒸し器に入れる。15分ほど芯に火が通るまで蒸したら、取り出して皮をむき、食べやすい大きさに切る。
2.作り方1のヤマイモにから揚げ粉をまぶし、揚げ物油で表面がきつね色になるまで揚げる。
3.塩を添えて完成。
Point!
日本で売られている新鮮なヤマイモなら蒸して加熱する必要はありません。そのまま衣をつけてあげてください。
てんぷらのように水で溶いた粉で作ってもよいでしょう。衣に特に決まりはありません。
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