2014年7月7日月曜日

中薬学テキスト - 第二章 清熱薬 - 第二節 清熱燥湿薬

第二節  清熱燥湿薬
清熱燥湿が主な作用で、湿熱証及び火熱証に用いる薬物の一群を清熱燥湿薬と呼びます。全ての薬物が清熱瀉火の作用を併せ持ちます。

全ての薬物が寒性を持ちます。

薬味に関しては“苦能燥湿”の薬性理論に基づき、全ての薬物が苦味を持ちます。この他秦皮は収斂作用を持ち、渋味を併せ持ちます。

 清熱燥湿薬が治療する湿熱及び火熱の部位は薬物ごとに異なり、帰経もそれぞれの薬物ごとに違います。清熱燥湿薬のうち、黄芩、黄連、黄柏、秦皮、苦参は湿熱瀉痢に効果があるため大腸経に属します。黄芩は清肺胃胆の効能があり、肺、胃、胆経にも属します。黄連は心胃の火を清め、肝の火を鎮める効能があり、心、肝、胃経にも属します。黄柏は腎火、膀胱の湿熱を取り除く効能があり、腎、膀胱経にも属します。竜胆草は肝胆の実熱を瀉し、下焦膀胱の湿熱を清める効能があり、肝、胆、膀胱経に属します。秦皮は清肝明目の効能があり、肝、胆経にも属し、苦参は心、肝、胃、膀胱経にも属します。白鮮皮は脾、胃経に属します。

以上をまとめると下の表のようになります。
薬物
薬性
薬味
帰経
大腸
膀胱
その他
黄芩


黄連


黄柏



竜胆草


秦皮
苦、渋



苦参

白鮮皮






清熱瀉火薬よりも更に体の熱を取り去る作用があり、薬性は全て寒、薬味はすべて苦であることを覚えましょう。帰経は少し複雑ですが、主に消化管や排泄器官に作用し、体の中に溜まった湿熱を排泄する作用があると覚えておくと分かりやすいです。このカテゴリーに属する黄芩、黄連、黄柏の三種の薬物は非常に重要です。それぞれの違いも覚えましょう。

黄芩
清熱燥湿、瀉火解毒、止血、安胎の効能があります。性味は苦、寒で、帰経は肺、胆、胃、大腸です。上焦の湿熱、実熱、肺胆の火をよく冷ます効果が特徴の薬物です。湿熱がたまり湿熱病となり、発熱して汗が出て、胸が苦しい、黄疸があり下痢をするなどの症状に用います。また肺熱による咳、熱病による口の渇き、寒熱往来などの証に常用されます。涼血解毒の作用も持ち、血の熱毒を取り除きます。癰腫瘡毒、咽喉腫痛、吐血、胎熱不安などにも常用されます。
黄連
清熱燥湿、瀉火解毒の効能があります。性味は苦、寒で、帰経は心、肝、胃、大腸です。性味は大苦、大寒とされ、清熱燥湿の作用は強大で黄芩に勝り、清熱燥湿薬の要薬とされます。中焦の湿火鬱結を清める力に優れ、胃腸の湿熱による下痢や嘔吐に用いられます。瀉火解毒の効能も非常に強く、胃火による歯痛、飢餓感、肝火による脇痛、心火による不眠、煩悩、熱邪による吐血、下血、鼻血などに用います。また癰腫瘡毒、火傷、耳痛、眼痛などにも用いられます。
黄柏
清熱燥湿、瀉火解毒、清退虚熱の効能があります。性味は苦、寒で、帰経は腎、膀胱、大腸です。下焦の湿熱を清め、虚熱を除く作用もあります。女性の湿熱が下がっておりものが悪臭を放つもの、脚気、足腰膝の腫痛などを治します。また膀胱に入って湿熱を冷まし、小便時に灼熱感があるものなどにも用います。腸胃肝胆の湿熱による黄疸、下痢や発熱、寝汗、遺精などの陰虚証にも用います。清熱燥湿、瀉火解毒は体表にも効果があり、瘡瘍腫痛、湿疹湿瘡、陰部の痒み、腫れなどにも用います。

黄芩、黄連、黄柏はどれも苦、寒の性質を持ち、清熱燥湿、瀉火解毒の効能があります。この三薬はどれも湿熱、火毒が引き起こす黄疸、下痢、瘡癰腫痛、湿疹湿瘡などの証に用います。黄芩は上焦の湿熱をよく清め、湿温暑湿、湿熱が胸につかえるものに多用されます。また黄芩は肺と胆の火を清める作用があり、止血、安胎の効果を持ちます。これにより排熱による咳、寒熱往来、血熱による吐血、下血、鼻血、胎熱不安などの証にも用います。黄連は大苦、大寒の性味をもち、清熱燥湿の力が非常に強いのが特徴です。中焦の湿熱を冷ます効果に優れ、胃腸の湿熱による下痢にはまず黄連が使用されます。また黄連は心胃を清める作用にも優れ、イライラや吐き気を止めるのに使います。また肝火による高熱、不眠、口内炎、胃熱による吐き気、飢餓感、胸焼け、眼、耳の腫れや痛みなどにも用います。黄柏は下焦の熱を除く作用があり、おりものの悪臭や脚気、脚腰膝の痛み、小便時に灼熱感があるものなどに多用されます。また黄柏には清虚熱の効能もあり、陰虚による発熱、寝汗、遺精にも用いられます。
竜胆草
清熱燥湿、瀉肝定驚の効能があります。性味は苦、寒で、帰経は肝、胆、膀胱、ときに肝、胆、胃です。性味は大苦、大寒ともされます。下焦の湿熱を除き、肝胆の実火を清める力に優れます。湿熱が下がって陰部の痒み、女性のおりものの黄変、男性の陰嚢腫痛や湿疹、黄疸、尿赤を引き起こしたものに多用されます。また肝火による頭痛、眼の充血、耳鳴り、味覚異常、肝火が極まり風を生んで、高熱で精神が定まらないもの、手足の筋肉がつるものなどの証に用います。

竜胆草と夏枯草はどちらも苦、寒の性味をもち、肝経、胆経に入ります。どちらも肝火上炎による頭痛眩暈、眼の充血や腫痛に用います。竜胆草は肝胆の実熱を除く作用に優れ、肝火が極まって高熱、錯乱、手足の筋肉がつるものなどに用います。夏枯草は辛味も持っており、肝火を清める作用は竜胆草には及びませんが、鬱結を散らす働きは勝ります。また夏枯草は肝火鬱結による、痰、首肩の痛み、嬰瘤など、さらに高血圧症にも用いられます。
秦皮
清熱涼血薬に分類されることもあります。清熱燥湿、解毒、清肝明目、平喘止咳の効能があります。性味は苦、渋、寒で、帰経は肝、胆、大腸です。収斂作用があり、下痢、下帯、特に熱毒による下痢、湿熱による帯下に常用されます。肝熱を冷ます力も優れ、目の充血、腫れ、痛みにも用います。
苦参
清熱燥湿、去風殺虫、利尿の効能があります。性味は苦、寒で、帰経は心、肝、胃、大腸、膀胱です。下焦の湿熱を除く作用に優れ、黄柏、竜胆草とよく似ています。殺虫、止痒の目的で外用されることもあります。湿熱を小便により排泄する作用があり、湿熱が下がっておりものに色が付いたもの、陰部が腫れて痒みがあるもの、湿疹、疥癬、妊娠中の小便不利、小便時に熱感や痛みがあるものなどに用います。

竜胆草と苦参はどちらも下焦の湿熱、肝胆の湿熱を除く作用があります。竜胆草は肝胆の実火を除く力に優れ、肝火による頭痛、目の充血、眩暈、脇の痛み、味覚異常に常用されます。また肝火が極まり風を生み、高熱でうなされるもの、手足がつるものなどにも用います。苦参は殺虫止痒の効果があり、また利尿作用にも優れます。湿疹や疥癬、妊娠小便不利、熱淋渋痛などの証にも用いられます。
白鮮皮
清熱涼血薬に分類されることもあります。清熱解毒湿熱、止痒の効能があります。性味は苦、寒で、帰経は胃、脾です。特に皮膚科で湿熱による瘡瘍に常用されます。瘡に膿が溜まったもの、肌が湿熱により糜爛したもの、陰部の腫れ、湿疹、風疹、皮膚炎などに用います。煎じ液を外用することもあります。

用法用量と注意
清熱燥湿薬のうち秦皮だけは渋味を持ち、収斂作用を持つことに注意しましょう。

全ての薬物が苦寒の性味を持ちます。用量が多すぎると容易に胃腸を傷害するので、用量が多くなりすぎないよう注意しましょう。

脾胃虚寒の症状には基本的に使用しません。また陰虚津傷のものには慎重に用いましょう。

黄芩は清熱に用いるときはそのまま、特に上焦の熱を清めるときは酒炒のものを、安胎に用いるときは炒めたもの、止血に用いるときは炭炒のものを用います。また黄芩は基原植物が古いものを枯芩、若い者を条芩と呼びわけ、枯芩は肺火を清める力が、条芩は大腸の火を清め、下焦の湿熱を除く作用に優れるとされます。

黄連は炒めることで寒性を低下させることが出来ます。またショウガ汁で黄連を炙ると胃火を鎮め吐き気を止める力を増します。また上焦の火を清めるには酒炙のものを、肝胆実火を瀉するには豚の胆汁で炒めたものを用います。

黄柏は清熱燥湿解毒にはそのまま、瀉水除蒸退熱には塩水で炙ったものを、止血には炭化させたものを用います。


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